自社の理念と識学理論が相反したとき
「and」で考えられるか
その後、安藤社長とお会いする機会を得ました。そのとき、「組織が停滞している原因は山口さんにあります。
まず山口さんが変わらないと、この組織は変わりません」と言われたのです。それで、識学の受講を決意しましたね。
組織変革のプロジェクトというと、組織の大多数を変えようとするイメージがありますが、安藤さんは違いました。私自身が成長できていないという問題意識と、私が変わらなければ組織が変わらないという安藤さんの考えが、ぴったりと一致したのです。
今だから話しますけれども、見積書を見たときは、「うわ、高い」ってひるみましたよ。とはいえ、せっかくやるのに効果が出なければ意味がないですし、それだけの価値を自分で出さないといけないという決意にもつながり、燃えましたね。
―識学を始めてどのように組織が変わりましたか
重要な役割を担う管理職が結果を残せないときは、設定した役割を満たすに値しないと判断し、その役割を解くというルールを設定しました。一般的な言葉でいうところの降格ですね。それまで降格制度はありませんでした。
当社では、ここ数年人事異動を開示しています。それらの変遷を見てもらうと、私たちの言葉でいう「抜擢」と「役割の解消」、つまり昇格と降格が頻繁にあることが分かるはずです。
それがよいかどうか、決まった答えはないでしょう。ただ、少なくとも当社ではそれらがうまく機能していると思っています。もちろん、誰であれ降格するのは嫌ですし、社員を降格させるのも気持ちがよいものではありません。安藤社長の本にも書いてあるように、一緒に働いている社員に嫌われたくないじゃないですか。社員は頑張っているわけですから。
ただ、一度責任者の立場から降格になって、一般社員と同じ待遇から再スタートして、別の役割で部長になった社員もいます。これって、本当に嬉しいんですよね。
―識学の内容について戸惑いはありませんでしたか
識学でも、他の理論でもそのまま受け入れるのではなくて、自分で考えて、自分の行動様式に落とし込むこと、会社の理念に沿ってオリジナリティのある事業や組織をつくることがとても大切なんだと思います。そのなかで、識学は原理原則として非常に有効です。
ただ、場合によっては理念と相反することが起こり得るでしょう。そうなったときに、「and」で考えられるかどうかは大切だと思います。
会社の理念と識学理論のどちらが重要かと言えば、明らかに会社の理念です。例えば、識学では、「ヒエラルキーをつくりましょう」と教えていますよね。けれども、私たちの理念はフラットなので、ヒエラルキーはつくりません。また、識学の教えでは「社長室は必要」です。安藤社長は、社員と通用口を分け、社員と会わずに部屋に入るそうですけれども、私はそうはしません。
人から見ると、識学を否定して理念を選んでいると思う方がいます。しかし、識学を学んでいる人であれば、決してそんなことはないと分かるはずです。
安藤社長が「社長室を作るべき」と言っているのは、そうしないと楽しさから社員への声かけをやってしまう社長が多いからでしょう。実は、かつての私もそうでした。ランチにいったり、飲みにいったりしたときも、社員から相談を受けたら全部解決してあげたくなるものです。でも、そんなことをしてしまうとその部下の直属の上司たちはやりにくいですよね。
だから私は、私自身が目標設定をする社員を除いて指示はしないと固く誓っています。ですから、社長室のなかに閉じこもらなくて大丈夫なのです。
ヒエラルキーも必要ありません。役割を明確にし、階層が少ない文鎮型の組織であったとしても、ルールはちゃんと守ります。そこにねじれは全くないですね。
安藤社長は多くの人にとって分かりやすいメッセージを発しているんだと思っています。「モチベーションは不要」って言うじゃないですか。私は識学を受講してモチベーションはとても大切だと再認識しています。モチベーションが大切だからこそ、多くの人に分かりやすく伝えようとして、まさに、マーケティングのため識学社ではモチベーションは必要ないと主張しているのだと理解しています。