勇気を持って「任せるマネジメント」をすべき理由
◆「個人目標」と「チーム目標」どちらが大事か
識学の1200社のマネジメントトレーニング受講者の中には、かつて「部下に『個人目標』より『チーム目標』を優先してほしい」と考えている経営者・管理職が多くいらっしゃいました。
「たとえ、自分の売上にならなくとも、支店長から頼まれた書類作成は優先的に行なってほしい。」
「自分の仕事が終わったらすぐに帰るのではなくて、チームが忙しいなら手伝いに回る気遣いを持ってほしい。」
「チームが求める成果のために、自主的に勉強するのは当たり前ではないのか。」
このように考える経営者・管理職の皆様のお気持ちも理解できます。
しかし、結論から言えば、このような考えは間違ったマネジメントに繋がります。
リーダーが「個人目標よりチーム目標を優先してほしい」などと口にしてしまえば、部下は「売上よりも、支店長の手伝いに即座に対応すること」が評価されると、思い込むでしょう。
その結果起こるのは「売上を上げられる優秀な社員の離職」と「上司に従うことが評価につながるという考え方」です。
「皆、会社全体・チーム全体の為に『One for All, All for One』の精神で業務に取り組んでいる。」
「すべての社員が『経営者目線』で会社全体を俯瞰して、物事を判断している。」
これらのスローガンは、裏を返せば「個人目標の達成以上に大切なこともある。全体目標のためなら個人目標が達成できなくてもよい」という考えに繋がります。
マネジメント理論「識学」においては、個人目標を絶対的に重要視します。
「個人目標の達成」というピースを部下一人一人が上司の下に持ち寄ることで、チーム目標という大きなパズルを達成できるのです。決して、ピースを作る立場の者がパズルの解明をすることはありません。
そして「どのようなピースなら、求めるパズルが築けるか」を考えることこそ、上司の仕事なのです。
※突発的な上司からの指示を無視してよい環境を目指すわけではありません。
突発的な依頼が頻発する部下に対しては、これ対する「対応」も目標の一部として、明確に設定する必要があります。
◆部下が誤った目標意識を持つ事には理由がある
部下に「個人目標・責任を果たすことが何より重要である」という意識を持たせる重要性を分かって頂けたかと思います。
今度は「個人目標」のさらに深い部分「意識上の個人目標」について考えてみましょう。
「意識上の個人目標」は「個人目標」とは異なり、目標を課せられた部下自らが、自身に対して課す目標です。
成果を上げ続ける多くの者は、常に「意識上の個人目標」を持ち続けています。
逆に、間違った「意識上の個人目標」を持つ者は、成果は上がらず、評価に対する不満を抱きがちです。
識学のクライアント企業で、よくあるケースを上げてみましょう。
とあるホームページ制作会社では、WEBデザイナー一人あたり、月間280万円のホームページの納品を目標としていました。
同じ業務を任せているはずなのに、目標を達成する者、しない者は概ね決まっています。
「なぜ、これだけ大きな差が生まれているのか」
それを紐解いていくと、彼らの「意識上の個人目標」に大きな差があることが分かりました。
常に達成し続けている社員は「月間240万円の納品」という目標を分解し、複数の小さな目標を自分に課していました。
「240万円を納品するためには、来月のために今月中に2件を担当させてもらわなくては。」
「クライアントとなかなか会えない案件についても、今週は無理を言ってでもミーティングしなくては。」
「月初だが、月末の制作で必要なコードは、今仕上げておかないと月末に時間はないぞ。」
端的に言えば、自分の制作状況だけを考え、未来まで見据えて制作をしていました。
一方、未達成が続いている社員はどうだったでしょうか。
彼らが達成できないのは「先を見据えて仕事をしていないから」だけではありませんでした。
「上司のデザインアイデアを実現してたら間に合わなくても仕方ないですよね。」
「納品売上はダメでしたけど、本数あげるのが大事だと言われたので、低単価はたくさん納品しましたよ。」
「一人一人に尽くしてるんで、お客さんのリピート率は私が一番です。」
「納品売上240万円」の目標が達成されないのは、社員たちの中に「納品売上」以上に重要だと思い込んでいるものがあるためでした。
「納品売上240万円がノルマだと公言しているのに、なぜ分からないんだ。」
と社長は頭を抱えていましたが、よくお話を聞くと、原因は社長の些細な言動や評価によるものでした。
「君もいいもの作ってくれたけど、私ならこのようなデザインにするかな。是非やってみなさい。」
「とにかく、たくさんのクライアントに当社のホームページを使ってもらおう。顧客の増加は重要だよ。」
「他者にクライアントを取られるのは絶対ダメだ。もっと一つ一つの制作にこだわらないと。」
目標や評価制度が曖昧な中で、社長が社内のあちこちで「あれが一番大事、これが一番重要」と発言していては、目標に対する認識に相違が生まれるのは無理からぬ話です。
この例では「社長」に原因があったため「誤った意識上の個人目標」が顕著に発生していますが、中間管理職においても、このようなケースは多く見受けられます。
◆3つの「任せる」マネジメント
それでは「誤った意識上の個人目標」を排し「正しい意識上の個人目標」を発生させるには、上司はどのようなマネジメントをすべきでしょうか。
「正しい意識上の個人目標」を生み出す3つのマネジメントをご紹介します。
01.部下に求めるものは「部下の個人目標」以外にないと伝える。
02.部下の仕事の「方法」に一切、口を出さない。求められても助言しない。
03.部下が上司に仕事の「方法」の承認を得る「週次会議」を実施する。
「部下に求めるものは『部下の個人目標』以外にないと伝える。」からご説明します。
正しい個人目標を設定した上で
「達成の為、必要な権限があれば上司に相談すること」
「個人目標以外の評価項目は、何一つないこと」
の2点を伝えるマネジメントです。
「正しい個人目標」とは、下記のようなものです。
===個人目標例===
評価計算は、四半期で100%をノルマとする。
小目標には重要度が設定されており、達成度×重要度によって獲得点数が算出される。
小目標01(重要度50):営業売上450万円
小目標02(重要度30):新商材売上90万円
小目標03(重要度10):紹介顧客の獲得4件
小目標04(重要度10):支店長からの契約書類作成依頼(四半期最大で12件の依頼があります。)
例えば
01が540万円(達成度120%)
02が45万円(達成度50%)
03が1件(達成度25%)
04が6件(達成度50%)
という結果に終わった場合
評価は82.5%の未達成となる。
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そして「正しい個人目標」を定めたからには、上司自身も目標以外の「部下への依頼」は極力控えなければなりません。
「営業車の給油、誰の目標にもしてなかったから、君が行ってきて。」
「私のお客さんだけど、今時間がないから、今日の対応お願いしていい?」
「契約書類20件も依頼してすまないね。本当に助かってるよ。」
これらの発言は厳禁です。
目標として加味するには、あまりに些細な業務であっても「ルール」として「誰かの役割であること」を定義しなくてはなりません。
次に「部下の仕事の『方法』に一切、口を出さない。求められても助言しない。」を解説します。
上司のあなたから見て「この方法を続けたら、明らかに彼の個人目標は達成できないだろう」と思っても、部下の仕事に口を出してはいけません。部下が「どうすれば、今から達成できるでしょうか?」と苦悶の表情で、あなたに尋ねても答えてはいけません。
もし、あなたの意見を部下に伝えるならば
「達成方法を考えるのは本来、部下であるあなたの仕事です。
たとえ、私から『達成の方法』を聞いても、あなたの『状況』『能力』にも適合するかは分かりません。
『あなたの顧客の状況』『あなたの強み・性格』『現商材の性能』これらに最も詳しいのはあなた自身であり、あなたに最適な『達成の方法』は、あなたにしか導き出せません。
私の『達成の方法』は参考程度とし、上司の意見だからと安易に同じ方法を選ばないでください。
もし私の『達成の方法』を実践し達成しても、未達成だとしても、その評価と責任はあなた自身のものであることは、認識していてください。
それでもよければ、お応えします。」
これほどの「断り」が必要になります。
部下の「方法」への介入は、それだけ慎重になるべきマネジメントなのです。
仕事の方法に対して、上司が頻繁に介入すると、部下は自分で考えることを諦めます。
時間をかけて編み出した「自分の方法」も、上司から定められた「型」によって無駄になるのですから、当然です。
いわゆる「ワンマン」スタイルの経営者・管理職が「部下が自ら考えて行動しないから、指示出しに膨大な時間を取られている」と悩むのは、この為です。
各部下個人が、自ら考え、成果を上げ続けるチームを生み出すには、勇気を持って「任せる上司」になる必要があるのです。
3つ目は「部下が上司に仕事の『方法』の承認を得る『週次会議』を実施する。」です。
ある部下に対して「この方法を続けていたら、彼は未達成になるだろうなぁ」と、あなたが思う時、部下の仕事の「方法」に口を出してはいけないとなると、今期の売上は諦めるしかないのでしょうか。
そうではありません。
部下の「このままでは未達成だ」という危機感が、未来を想像する力になるようマネジメントしなくてはなりません。
その方法として「週次会議」が有効です。
週次会議は「上司と部下が達成までの道のりを話し合う場」ではありません。
「上司が部下に、達成の方法をレクチャーする場」でもありません。
週次会議は「部下が上司に『自ら考えた達成の方法』を報告し、承認を得る場」です。
上司は「部下が発表する達成方法」を公正に判断し、承認・否認しなくてはなりません。
この時上司は「部下の発表」と「上司自身の考え」の一致を目指してはいけません。
上司から見て「突飛な施策」が、部下にとっては最適な施策かもしれません。
部下から発表内容を詳細に引き出し、それでも迷ったら部下に任せる気概が重要になります。
ちなみに、識学を導入して間もないクライアント企業が「週次会議」を実践した時には「発表内容を持参しない部下」が必ず現れます。
彼らは、この「週次会議」の趣旨をまだ理解していないだけで、叱責する必要は全くありません。
週次会議は「今後目標を達成するために何をするのか、上司に発表し承認を得る場なのだ」と伝え、プランを用意させて、再度週次会議を開いてください。
◆マネジメントが変われば組織はここまで変わる
これらのマネジメントを実践し、識学導入企業は「売上向上」「企業規模拡大」「離職低減」を実現してきました。
中でも、今回ご紹介した3つのマネジメントを用いて、大きな成長を遂げた例をご紹介します。
クライアントは、東京都内にある300人規模の不動産仲介会社です。
社長・役員・部長層の約15名へのマネジメントトレーニングを行いました。
同社は、非常に営業会社らしい風土を持っていました。
一営業マンとして、大きな売上を上げた者が昇進していきます。
結果に応じたフェアな評価制度が、識学導入前から実践されており、しかし気になる問題もありました。
部長・課長の入れ替わりが激しく、課長として成果を上げていた社員が、部長になった途端に成績不振となるケースが続いていたのです。
これにより、特定の営業部の成績が低迷していました。
この問題を紐解いていくと、この営業部全体に通ずる「任せられないマネジメント」が原因だと分かったのです。
課長が受け持つ部下は、多くとも6名です。
部下の「方法」に徹底的に介入する「任せられないマネジメント」が通用するのは、この規模まででしょう。
「部下がお客様に紹介すべき物件のチェック・選定」
「契約の取りまとめ進捗の確認・指示」
「お客様へのメール送信のタイミングと内容の管理・精査」
「『上司の達成の方法』とズレている場合の頻繁な指摘・指導」
「任せられないマネジメント」は、上司自身にも大きな負担となります。
同様のマネジメントを部長として「4つの課」「28名」の部下に行おうとすれば、無理が出ます。
その後「任せられないマネジメント」から「任せるマネジメント」へ移行した同社の変化は凄まじいものでした。
まず、各営業社員の成果が向上し、残業時間が減るのと合わせて、翌々月には短期離職がゼロになりました。
もともと、上席の社員ほど長時間労働の傾向にありましたが、部下の行動全てに目を光らせる体制を変えたため、部下より先に退社するようになりました。
「上司を見ていると出世したくなくなります」とまで言われた管理職の激務が改善され、優秀な人材が「この会社で働き続けたい」と思える環境となり、300名だった会社は数年で倍以上に拡大しています。
この成功の根幹には「個人目標こそ、何より重要である」という意識を社員一人ひとりが持ち、自分の責任に集中している環境があります。
今回は具体的で、少し極端な3つのマネジメントをご説明しました。
あなたの組織・チームについて
「部下の個人目標への意識が曖昧だと感じる。」
「部下の仕事に口を出している自覚がある。」
「部下に与えた個人目標以外に、手伝いをさせてしまっている。」
と、感じる方は、今一度「任せるマネジメント」をご検討ください。
マネジメントに真剣に向き合っている「あなた」と「あなたの組織・チーム」が、より大きな成果を上げ、すべてのメンバーがより豊かで幸福に発展することを祈っております。